ワクチン開発の技術背景

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ワクチンとは

動物や魚も含め、私たちの身体の免疫系は、病原体(毒素なども)の侵入を危険な外的シグナルとして認識することで、生体防御反応を示す重要な役割を担っています。

ですから、いずれ直面する可能性のある危険な外的因子に適切に対抗できるよう前もって免疫系を“教育訓練”しておけば、いざ本物の病原体が侵入してきたとき、身体を守ることができます。

この免疫系の自己・非自己識別能力と記憶力を駆使して感染から身体を守るために予め投与する薬がワクチンです。

ワクチンとは、「病気の予防であり、予防こそ最小の費用で最大の効果を期待できる理想的な疾病対策である。」と謳われています(蛋白質 核酸 酵素 Vol.37 No.14, 1992)。

これまでのほとんどのワクチンは、ウイルスや細菌あるいは病原体の毒素などを不活化、弱毒化、あるいは無毒化することで作られてきました。

すなわち、本物そっくりで、しかも感染性や毒性を除去した病原体や毒素を免疫系に“予め見せておく”ことで、その病原体や毒素の特性(主に形状)を記憶させておき、本物の敵の襲来に備えるわけです。

このようなワクチンは、不活化ワクチンとか弱毒化ワクチン、あるいはトキソイドワクチン(毒素の場合)と呼ばれ、今でも多くのワクチンがこの部類に属します。

ジェクタス社の技術

しかし、1980年代のB型肝炎ワクチンの登場に端を発し、近年の子宮頸がん予防ワクチン、肺炎球菌ワクチンなどは、病原体の一部だけを昆虫細胞や酵母などで作り出した医薬品です。

この手法は多くの動物用医薬品で既に使われています。

このように現代は、“ワクチン開発の遺伝子工学期”とも称されるくらい、遺伝子組換え技術で作り出した様々な組換えタンパク質がワクチンとして活躍している時代です。

弊社はこのような遺伝子操作技術・タンパク質工学的技術を駆使することで、新しいタイプのワクチンを開発しています。

しかし、病原体の一部を抗原として単に大腸菌や酵母、昆虫細胞などで作るだけでは、効果的なワクチンの開発が困難な場合が多くあります。

ですから、免疫系が効率的に反応し、記憶できる病原体や毒素の形状などの特性を深く理解し、ワクチン抗原そのものを人為的に構築・改良する創意工夫が必要になります。

この試行錯誤する一連の作業を“分子設計(デザイン)”と呼ぶことがあり、ワクチン開発過程の中で弊社が主に担当する部分です。

ちなみに、抗体分子も人為的に設計し、改良することが可能です。

しかし、抗体がイムノグロブリン(免疫グロブリンともいう。)という一連の類似したタンパク質群から構成されているのに対し、抗原の種類は数限りなく存在しますので、抗原の分子設計の複雑さは想像に難くないはずです。

これからのワクチン開発とジェクタス社の取り組み

このように、現代のワクチン開発は、まさに病原体や免疫システムから学び、しかも本来の病原体とは異なる+αの要素も兼ね備えた分子設計(デザイン)の成果物であるともいえます。

こうして設計されたワクチン抗原は、厳密な意味では自然界に存在しませんが、免疫系が本来の病原体や毒素だと“勘違い”して認識し、免疫応答を起こさせる機能をもちます。

ですから、免疫系が危ないと認識しつつ、実は全く危なくないものが安全で効果的なワクチンの条件であるといえます。

このようなワクチンを投与することは、まるで防災訓練のようなものでしょう。

本気で危険を想定した訓練を実施しなければ、いざという時役に立たないということにもなりかねません。

さらに、抗体(液性免疫)や細胞性免疫といった獲得免疫を効率よく惹起するためには、自然免疫の誘導が必須であることは、現代免疫学の基本的な考え方です。

ですから、分子設計(デザイン)と同時に自然免疫系を活性化させる物質の開発もワクチン開発にとって重要な課題です。

一般的にはあまり聞きなれませんが、この自然免疫系を活性化させる物質が「アジュバント」と呼ばれるものです。

ですので、基本的に「抗原+アジュバント」を一単位としてワクチンが構成されています。

弊社では、病原微生物学や免疫学の基礎知識を基盤とし、分子設計(デザイン)に始まり、抗原分子の試作とその分子生物学的解析を経て、マウス等を使った免疫学的解析などを含む前臨床試験へと進みます。

そこで有効性が確認されれば、製薬企業等と共同で製剤化へ向けた取り組みを進めていきます。

今の私たちは、これまでの古典的なワクチン(不活化ワクチン、弱毒化ワクチン、トキソイドワクチンなど)と新しいタイプのワクチンとが共存し、補填し合いながら、ヒトや動物の健康を守る時代に生きています。

そして、これから新しいタイプのワクチンがもっと多く開発される時代になるでしょう。

弊社はこのようなワクチンを取り巻く世界的動向の中で、その変貌を見守りつつ、しかもその変化をもたらすための一助となることを目標にしています。